潰瘍性大腸炎とは?
大腸の粘膜がただれてしまったり、潰瘍ができてしまう病気です。
通常の炎症は、細菌やウイルスを身体から追い出そうとする反応として現れます。
原因となる細菌やウイルスの存在があれば、それらを取り除くことで炎症は治まります。
ところが、明らかな原因がなくても消化管に炎症が起こる病気があり、代表的なものに「クローン病」と「潰瘍性大腸炎」があります。
潰瘍性大腸炎の場合、炎症反応は大腸に限られます。
一方で、クローン病は全ての消化管に炎症反応が見られます。
潰瘍性大腸炎になると、頻繁に起こる下痢、激しい腹痛、血便などの症状があります。
症状が長引くと大腸癌になってしまうこともあり、早めの治療開始が望まれます。
慢性の病気で完治することはないため、長期にわたる治療が必要となり難病指定とされています。
患者さんはどのくらいいるの?
日本では約17万人の潰瘍性大腸炎の患者がいると言われています。
10万人あたり100人ほどの患者数です。
埼玉県富士見市は人口10万人ほどですので富士見市に100人ほどの患者がいることになります。
あまり多くは見られない病気ですね。
この割合はアメリカの約半分ですので、食生活の変化などでこの先もしかしたら増えていくかもしれません。
男女差はなく、発症年齢のピークは男性で20歳から24歳、女性で25歳から29歳です。
社会人になりストレスが溜まる年代で多く発症していますね。
ピークは若い世代ですが、子供でも高齢でも発症している人はいます。
また、タバコは身体に悪いとされていますがこの病気の場合は、タバコを吸っている人のほうが発症しにくいと言われています。
かと言ってタバコをすすめるわけではありません。
原因は?
潰瘍性大腸炎が起こる原因として何らかの免疫異常があると言われていますが、はっきりとした原因解明には至っておりません。
潰瘍性大腸炎になりやすい遺伝子を持つ人が、過労や寝不足が続いたり、食生活の乱れや、感染症など免疫に負担がかかる状況が重なると発症するというようなことも言われています。
原因を聞くと、若い世代に発症が多いことも納得できますね。
どんな人に多いの?
特になりやすい人という定義はありませんが、ストレスは潰瘍性大腸炎を3倍悪化させると言われています。
ストレスを溜め込みやすい人は要注意だと言えます。
遺伝するの?
親や兄弟が潰瘍性大腸炎だと数%の確率で発症すると言われています。
欧米では20%の患者が近い親族に患者がいると報告されています。
だからと言って、他の原因がなければ発症するわけではないので病気が「遺伝する」というわけではありません。
どんな症状が出るの?
症状は激しい腹痛や、度々起こる下痢、血便などが主です。
潰瘍性大腸炎の患者のうち90%は中軽度の症状で済みますが、残り10%は重症化します。
重症化すると発熱や、頻脈(脈が早くなる)、長期間の血便による貧血や、栄養を摂取しにくくなることによる体重減少などの症状が見られます。
また、炎症が腸の奥まで進むと腸管合併症を引き起こす場合もあります。
腸管合併症とは、大量出血、腸管に穴があく、腸管が狭くなるなどの症状です。
中毒性巨大結腸症もそのうちの一つです。
中毒性巨大結腸症とは、腸の中に毒素やガスが貯まることで大腸が膨らんでしまい、発熱や頻脈などの中毒症状が現れます。
中毒性巨大結腸症が起こると多くは緊急手術が必要となります。
また、腸以外にも症状が現れることもあります。
関節や皮膚、目の病変、アフタ性口内炎に結節性紅斑など全身に症状がみられます。
潰瘍性大腸炎は長期にわたると大腸がんに発展していく危険性が高いので早期治療が求められます。
診断はどうするの?
診断は段階を踏んで行います。
問診
便の状態や下痢の回数
血便はどのぐらいの頻度で出るのか
腹痛の痛みの程度
発熱などの症状があるかどうか
どのぐらい前から症状があるのか
他に病気はないか
などの聞き取りを行います。
血液検査、便検査
血液検査で、貧血の具合や他の病気があるかどうか調べます。
便検査では、血便の様子や栄養状態を調べます。
大腸内視鏡検査
腸の中にカメラを入れて実際に患部を診ていきます。
どのぐらいの範囲、どのぐらいの程度の炎症なのかが分かります。
検査は15分から30分ほどで終わります。
粘膜の一部を採って、顕微鏡で詳しく検査することもあります。
潰瘍性大腸炎かどうか、確定します。
X線検査
腸内のガスの様子を診るために、腹部のX線検査を行う場合もあります。
難病ですが、病気が分かってすぐ死に至るような恐い病気ではありません。
また、病院に行っても見つかりにくいという難しい病気でもありません。
早めの検査、治療開始が大切です。
治療はどうするの?
診断が確定したら、次は治療です。
治療は内科的治療、外部治療があります。
1つずつ紹介していきます。
内科的治療
潰瘍性大腸炎を完治させる治療薬というものはまだありませんので、腸内の炎症を抑え症状をコントロールする治療が行われます。
潰瘍性大腸炎には症状が強く現れる「活動期」
症状が治まって普通に過ごすことのできる「寛解(かんかい)期」
とがあり、時期に応じた治療をしていきます。
潰瘍性大腸炎は完治はできませんが、寛解の状態にはできる病気です。
「寛解」とは全治までは言えないけど、病状が治まっておだやかであることを言います。
アミノサリチル酸製剤
アミノサリチル酸製剤は、中軽度の潰瘍性大腸炎での治療の中心となる薬です。
「活動期」の炎症を抑えて「寛解期」の方へ進めていく「寛解導入療法」にも使われますが
「寛解」の状態を長く維持し再燃を防ぐ「寛解維持療法」にも使われます。
内科的治療はこの2つの治療法のどちらかになります。
再燃とは、「寛解期」の状態だったのにまた「活動期」になってしまうことです。
また、アミノサリチル酸製剤は飲み薬としても座薬としても使うことができるので症状や希望に合わせて医師と相談しましょう。
ステロイド
効果が強いので炎症を抑えることができますが、長期間使用すると副作用が現れることがあるので、医師の指導の元で期間と量を決めて使用します。
寛解を維持する効果はないため、「寛解期」ではなく「活動期」に使用します。
免疫調節薬、抗体製剤
ステロイドを投与しても効果があまり見られない場合や、再燃を繰り返してしまう場合にも使われる薬です。
過剰になっている免疫反応を抑える効果があります。
外科的治療
内科的治療では効果が見られない場合、医師と相談のもと外部治療が行われる場合もあります。
手術療法
大腸をすべて摘出する手術方法です。
手術が治療法として検討されるのは、以下の条件のときです。
①内科治療が無効である(特に症状が重症)
②副作用などのため内科治療を行うことができない
③大量の出血
④穿孔(大腸に穴があいてしまう)
⑤大腸がんであるか、その疑いがある場合
以前は手術で大腸を全摘出すると人口肛門にせざるを得なかったのが医療の進歩により肛門機能を残すことが可能となりました。
その他の治療法
血球成分除去療法
身体の中から一旦血液を取り出し、炎症を起こしている白血球を外部装置で取り除いてから再び血液を身体の中に戻すという治療法です。
下痢や血便、発熱などの症状や内視鏡所見など、潰瘍性大腸炎で60%、クローン病で50%の有効性が報告されています。
副作用としては、頭痛、嘔気、めまいなど、一時的に体内の血液を取り出すことによる一過性で軽度なものが認められています。
経過はどうなるの?
発症後長年経つと大腸がんになるとも言われている潰瘍性大腸炎という病気ですが、大腸がんになる確率は経過年数10年で1.6%、20年で8.3%、30年で18.4%と、年数経過とともに高くなります。
しかし、早期に治療を開始すれば日常生活を送ることも十分可能な病気です。
潰瘍性大腸炎の患者のタイプは4つあります。
再燃寛解型
寛解と再燃を繰り返します。多くがこのタイプです。→50%
慢性持続型
寛解に至らないまま6ヵ月以上にわたり病気の勢いが強い「活動期」のままであるタイプ。→29%
急性劇症型
少しずつではなく、とても激しい症状で発症します。
穿孔(腸管に穴が開くこと)や敗血症などを伴うことが多いタイプ。→1%
初回発作型
発症後、一度寛解するとそのまま再燃しないままのタイプ。こちらは将来、再燃寛解型に移行する可能性が高いと言われています。→20%
Q&Aコーナー
Q:症状が治まっている寛解期でも毎日の服用は必要??
A:再燃させないためにも、お薬を毎日飲むことがとても大切です。
2年間「きちんと薬を飲み続けた人」は「飲み忘れが多かった人」に比べて寛解期を維持できていたことが分かっています。
症状が治まると油断して飲み続けることが難しくなりますが、寛解状態を長く維持し再燃させないためにも毎日服用しましょう。
Q:症状が治まったら治療は終わり?
A:「寛解」を目指し、薬の服用などで炎症を抑えていきますが、症状が治まっただけの状態では再燃しやすくなります。
下痢や腹痛などの症状がなくなっても治療を続け、粘膜の炎症が完全に治まった状態「粘膜治癒(ねんまくちゆ)」を目指すことが近年では重要だと考えられるようになりました。
「粘膜治癒」の状態にまで持っていくと「活動期」の波が来ても再燃しにくくなり、治療を続けることでより良いコントロールをすることができるようになります。
自己判断で治療をやめてしまうのは大変危険です。
最後に
内科的治療や外部治療で症状が抑えられれば、運動制限や食事制限などもありません。睡眠をしっかりとったり適度な運動をする、ストレスをためないなど健康的な生活を心がけるだけで皆と同じように日々を楽しむことができるのです。
<参考文献>
ガイドライン 潰瘍性大腸炎診療ガイドライン
研究グループ 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班