051〜100 整形外科

後縦靱帯骨化症(告示番号 69)

後縦靱帯骨化症とは

ヒトは、脳からの司令で手足を動かしたり(運動神経)、物を触って「痛い」「熱い」などの感覚を脳に伝える(感覚神経)とき、身体中に張りめぐらされている神経によって刺激が伝達されます。

この神経は、背骨で作られた空間(脊柱管)を通っています。

 

後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)は、背骨の中を縦に走る「後縦靱帯」が固く骨に変化(骨化)することにより、脊柱管が狭くなり、圧迫された神経に障害が出てきてしまう病気です。

運動障害や感覚障害などの症状を引き起こし、重症になると誰かの介助が必要になることもあるため、難病指定とされています。

 

患者さんはどのくらいいるの?

国内の後縦靱帯骨化症の患者さんは3万人ほどですが、軽症のため自覚症状がなく病気に気づいてない人や、診断されてない人も含めると100万人ほどいるのではないかと言われています。

100万人という数字は、全国の後縦靱帯骨化症の患者さんを集めると広島市のほとんどがこの病気の患者さんになってしまうぐらいの数字です。

実際の患者数と予想される患者数に差があるのは、自覚症状が現れてからでないと診断がつかないこと、この病気がまだあまり知られてないこと、また専門医でないと診断自体が難しいことなどが原因だと考えられます。

レントゲン写真で骨化が見つかる頻度は、1.5%〜5.1%、平均すると3%前後と報告されていますが、上記の理由ですぐに診断することは難しいようです。

 

原因は?

縦靱帯骨化症は、はっきりとした原因の分からない病気です。

複数の要因が複雑に重なって発症にいたると考えられています。

家庭内の発症が比較的多いことから遺伝的素因が示唆されていますが、性ホルモンの異常、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿病、肥満傾向、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレスの他、症状が現れている部分の椎間板脱出など、様々な要因が考えられています。

 

どんな人に多いの?

病気が発症するのは中年以降が多いです。

特に50歳前後で発症することが多くり、男女比は2:1と男性の方が多いことが分かっています。

また、肥満の方や、糖尿病の患者さんに発生頻度が高いようです。

人種差については、白人や黒人にはめずらしく、東アジアの日本や韓国、中国など黄色人種の中でも、特に日本に多い病気と言われています。

 

遺伝するの?

これまで行ってきた家族歴の調査や双子研究などにより、この病気に遺伝が関係している事が明らかとなっています。

例えば、患者さんの兄弟に後縦靭帯骨化症が認められる確率は約30%と報告されています。

ただ、この数字からも分かるように患者さんの血縁者に必ず遺伝するというわけではなく、遺伝の他にも様々な要因が重なることで発症すると考えられています。

 

どんな症状が出るの?

背骨の中でも「どの部分に骨化が見られるか」によって
・頚椎(けいつい:頭を支える部分の骨)後縦靱帯骨化症
・胸椎(きょうつい:頚椎と腰椎の間の骨)後縦靱帯骨化症
・腰椎(ようつい:腰部分の骨)後縦靱帯骨化症
に分類されます。

 

頚椎後縦靱帯骨化症

初期症状は、首筋や肩甲骨の周辺・指先に痛みやしびれが現れますが、進行すると次第に痛みやしびれの範囲が拡がり、下半身にも症状が現れるようになります。

すると、足のしびれや感覚障害をはじめ、手足を自分の思うように動かせなくなる運動障害、両手の細かい作業が困難となる手指の巧緻(こうち)運動障害などが出てきます。

さらに重症になると、立つ・歩くなどの基本的な動きが難しくなったり、排尿や排便の障害(自律神経障害)が出てきたり、一人で日常生活を送ることが困難になることもあります。

 

胸椎後縦靱帯骨化症

初期症状は、下肢の脱力やしびれなどが多く見られ、主に体幹や下半身に症状が現れます。

重症になると歩くことが難しくなり、排尿・排便に障害が出てくることもあります。

 

腰椎後縦靱帯骨化症

初期症状は、歩くときに下肢の痛みやしびれ、脱力などの症状が現れますが、やはり重症になると歩行困難・排尿排便の障害が出てきたり、歩くことが困難になります。

一方、骨化が腰椎に限られている場合は頚椎の脊柱管を通る神経は障害されないため、上半身に症状が出ることはありません。

 

 

全ての患者さんの症状が進行・悪化していくわけではありません。

むしろ、患者さんのうち半数以上は半年たっても症状がほとんど変化しないようです。

しかし、一部の患者さんは確実に病気が進行していき、手術が必要になってしまいます。

また、転倒などの軽い外傷がきっかけで、今までの症状が一気に強くなってしまうこともあるので注意が必要です。

 

診断はどうするの?

通常は、何らかの自覚症状をきっかけに検査を行い診断にいたります。

腕のしびれや痛み、肩や首の凝るような痛み、手指のしびれや痛みなどが初期症状としてありますが、これらは誰にでも起こる「ありふれた症状」です。

それに加えて、手先で細かい作業ができなくなったり、腕のしびれに加え足がしびれたり、歩行障害などが出てきたときは後縦靭帯骨化症も疑いながら詳しく調べていきます。

 

画像検査

後縦靱帯が骨化している所見は、レントゲン検査でほぼ見つけることができ、日本人の約 1.9%〜3.2%に同様の所見があるとも言われています。

そして、レントゲン検査で見つかったその骨化所見が自覚症状の原因となっているかどうかが重要となります。

(CT検査やMRI検査などの細かいところまで見ることのできる画像検査でしか見つからない骨化所見については後縦靱帯骨化症とは言いません。)

例えば、頚椎後縦靱帯骨化症の診断基準は、「後縦靱帯骨化を画像上確認でき、それによる臨床症状が出現している場合を頚椎後縦靱帯骨化症とする。」 となっています。

症状をヒアリングし、画像検査で判明した脊椎の骨化部位が原因と考えられる症状があるかどうかをみていきます。

四肢や体幹を通る神経の圧迫による症状としてよく見られるのは、手や足がつっぱって動かせない痙性手(けいせいしゅ)や、つま先を引きずるように歩く痙性歩行(けいせいほこう)、手袋や靴下を履いていないのに履いているような感覚になってしまう感覚障害などです。

慢性的に神経が圧迫されていると筋肉の萎縮がみられることがあります。

筋肉の萎縮による異常、感覚や神経反射の異常があるかどうかは診察で確認することができます。

頚椎が骨化し神経を圧迫し、首が通常の半分も曲がらなくなり日常生活に支障が出てしまう場合には、前述した診断基準と合わせて後縦靭帯骨化症と診断されます。

似たような症状が現れる間違われやすい病気は、強直性脊椎炎、変形性脊椎症、強直性脊椎骨増殖症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、運動ニューロン疾患、脊柱奇形、脊椎・脊髄腫瘍、脊髄炎、痙性脊髄麻痺(家族性痙性対麻痺)、多発ニューロパチー、末梢神経障害、脊髄小脳変性症、筋疾患、脳血管障害、などがあります。

そのため、これらの病気と鑑別するために詳しい検査が必要となります。

レントゲンやCT、MRIなどの画像検査、自覚症状をはじめ、診察によって確認される神経学的所見、髄液検査、血液検査、脊髄誘発電位や脊髄刺激などの電気生理学的検査など、様々な検査を行い総合的に診断を行います。

特に、筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患との鑑別はしばしば難渋します。

似たような症状が現れても治療法は全く異なるため正しい診断が必要です。

もし、自身の症状が後縦靭帯骨化症ではないかと疑った時には、認定脊椎脊髄病医、もしくは認定脊椎脊髄外科指導医などの専門医がいる病院を受診することをおすすめします。

 

治療はどうするの?

治療は、大きく保存的治療と外科的治療に分けられます。

 

保存的治療

軽度の患者さんのほとんどは保存的治療を選択します。

保存的治療の代表的なものに首を固定する装具である「頚椎カラー」があり、これを装着して圧迫されている神経を保護します。

神経の圧迫を増強させるような動きや、首を反らすような姿勢を避けることも大切です。

他にも、理学療法(リハビリ)や薬物療法(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤など)で炎症を抑えたり、筋肉の緊張を緩めたりして症状を抑えます。

症状は進行しないことも多いですが、何かのきっかけに悪化することもあります。

一度、後縦靭帯骨化症の診断を受けた患者さんは、定期的なレントゲンやCT、MRIなどの画像検査を行い、現在の自分の状態や病気の進行を把握しておくことが重要です。

 

外科的治療

重症の患者さんや症状が進行している場合は外科的治療を選択します。

様々な術式があり、骨化の状態や部位に応じて様々な方法がとられます。

多くは神経の通り道を拡大し、骨化した靭帯から神経の圧迫を取り除く方法と、骨化した靭帯を摘出する方法とに分けられます。

神経の圧迫を取るため骨化している部分を摘出して、その部分を自分の骨などで固定する「前方法」と、骨化部位はそのままにして神経の入った脊柱管を拡げる「後方法」があります。

病変部位が頚椎の場合は一般的に後方法が選択されますが、骨化の範囲が大きい場合や頚椎の配列が不良な場合においては前方法が選択されることもあります。

病変部位が胸椎の場合は、背骨が丸くなっているため後方法で脊柱管を拡げるだけではなく、ボルトなどを用いて固定を加える手術が行われることが多いです。

病変部位が腰椎の場合は、後方法が一般的です。

また、骨化している範囲が大きい場合には大きな手術になることもあり、骨の移植や器具による固定が必要になる場合もあります。

病気の状態によっては手術を行ってもあまり症状が改善しないこともありますが、手術により病気の進行は食い止めることが可能です。

 

経過はどうなるの?

後縦靭帯骨化症はレントゲンなどで靭帯の骨化が確認されても、自覚症状が無い場合や、軽度な症状のまま進行しない場合なども多く見られる病気です。

経過は患者さんごとに異なり、数か月~数年単位で症状が少しずつ悪化していく場合もあれば、事故や転倒などの外傷が原因で急激に症状が悪化することもあります。

また、重症にも関わらず治療せずに長く放置していると不可逆的な神経障害となり、後に手術などをしても後遺症が残る可能性が高いです。

経過の予測がつきにくいので、診断を受けた場合は定期的な画像検査してもらうなど、十分な経過観察を行うことが大切です。

 

最後に

診断されていない人も含めると、後縦靭帯骨化症はよくある病気としてもっと認識されるべきです。

類似症状が現れる病気との鑑別が難しく専門医でなければ診断がつかないこともしばしばありますが、手術により進行を食い止めることが可能な病気なので、早期に適切な診断・治療を受けることが望まれます。

<参考文献>
ガイドライン 脊柱靭帯骨化症診療ガイドライン 2019
研究グループ 脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班

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